日本語の方言アクセント のバックアップ(No.6)


類別と式の理論

日本語の発音の抑揚は音の高低で行われる。
この音の高低のうち、文法などの文的なもので決まる高低と、単語を区別するための高低がある。
このうち、文の音の高低をイントネーション (intonation)、単語を区別するための音の高低を(狭義の)アクセント (accent) という。

類聚名義抄と『類』

類聚名義抄は11~12世紀に成立した辞書であり、当時のアクセントを記した『声点』が記載されている。これに記されたアクセントを名義抄アクセントとよばれ、日本語アクセント祖体系を再建するうえで、重要な資料となった。

名義抄アクセントと、各地の方言は強い対応関係があり、方言間の対応関係を示すために、類聚名義抄で同じアクセントであった単語をまとめてグループ化し、『類』と呼ぶこととなった。
これにより、各方言のアクセント体系を簡便な記号で表せる。

例えば、1拍の名詞には3つのグループがあるため、各グループを1拍1類、1拍2類、1拍3類と呼び、その三つと例外について記述するだけで、下記の表のように(ただし表は制作中)1拍のアクセント体系が表せる。

『類』の統合

各『類』に別々のアクセントが割り当てられていたものが、時代の変化によって、同じアクセントになることを類の統合という。例えば、東京の中輪式アクセントでは、名詞の1拍1類、1拍2類が同じアクセントとなっているため、この二つがかこのどこかの時点で統合したことになる。これが大事なことだが、余程のことがない限り一度統合した類が再び分離することはない。一度統合した『類』に、また類別に従ったアクセントを割り当てるためには、持っ話されていない過去の方言、あるいは類が分かれている方言から、辞書的に導入する必要があり、多数の単語から成る『類』に対してこのようなことを行うのは現実的でない。

類の統合状況を表すのに、表記規則を定める。
例えば、名詞について1拍1類と1拍2類が同じで、1拍3類が異なるとき、
I-12/3
のように、名詞の拍数をローマ数字で、各類をアラビア数字で表記し、スラッシュで区切ることで、第1類・第2類が統合し、第3類が異なることを示す。

『類』と『式』

現在、研究が進んでいる1拍名詞、2拍名詞を基に、その『類』がどう統合しているかで、各方言アクセント体系が大まかに分類されている。これを『式』と呼ぶ。なお、同じ『式』でもアクセントが異なる場合は、サブカテゴリーとして『型』などを用いる。
ありうる『式』は多数あり、実在する『式』も多数あるが、主なものは、京阪式、内輪式、中輪式、外輪式、二型式、それから無アクセントである。

発音の理論

方言アクセント史の再建の類別の超越

各種アクセント

京阪式アクセント
内輪式アクセント
中輪式アクセント
外輪式アクセント
二型式アクセント

内輪式、中輪式の成立過程の東西の違い

日本の方言アクセントのうち、外輪式、中輪式、内輪式、京阪式は、周圏的構造をなしている。しかし、東日本と西日本ではその成立経緯は異なる可能性がある。

東日本の方言アクセントの分布境界線の研究により、外輪式と中輪式の接触期間は極めて長いことが判明している。また、中輪式と内輪式の接触期間は、外輪式と中輪式の接触期間より短いと想定できる分布を成している。

一方、中国地方においては、東日本のような長期の接触期間は想定できないように思われる。

この場合、東日本の中輪式と内輪式は時間差を持って現れた可能性があるのに対し、西日本の中輪式と内輪式の出現は、より新しい現象である可能性がある。

無アクセントの形成

【説1】
大きく違う複数のアクセントが接触したことで、接触点の双方のアクセントが単純化し、無アクセントが広がった。

【説2】
もともと日本語(或いは古代東国方言)は無アクセントであり、有アクセント化した古代中央方言が拡大したものの、各所に無アクセント地域が残った